暮らしに役立つ 医療のおはなし 14
慢性呼吸器疾患の急性増悪 やなせ内科呼吸器科クリニック 院長 柳瀬 賢次

■慢性呼吸器疾患とは?
 
呼吸器の病気の中には、かぜ、急性気管支炎、肺炎などのように数日の経過で発病し短期間で治ってしまう急性の病気と、気管支喘息や肺気腫のように長年にわたり上手につきあう必要のある慢性の病気=慢性呼吸器疾患とがあります。慢性呼吸器疾患には、気管支喘息や肺気腫のほかに、慢性気管支炎、気管支拡張症、びまん性汎細気管支炎、肺結核後遺症、肺非定型抗酸菌症、肺線維症(間質性肺炎)、塵肺などがあります。これらの病気をかかえる患者さんは、肺や気管支が傷んでいるので、健康な人に比べてさまざまな余病を併発しやすくなっています。

■急性増悪

 
慢性呼吸器疾患の患者さんで、急に咳、痰、発熱、息切れ、胸痛などが出現して状態が悪化することを「急性増悪」と言います。急性増悪の原因には感染、喘息発作、心不全、気胸、喀血などがあります。慢性呼吸器疾患の患者さんにこれらの病気が加わると、健康な人に比べて重症化しやすく、時に入院治療を要することにもなりかねないので、早期治療が大切となります。気になる症状が出現したら、すぐに来院してください。


(1) 感 染
 
 急性増悪の原因で最も多いのが感染です。発熱、咳などに加えて黄色や黄緑色や褐色の膿性痰が出現すれば、細菌感染が起こったと考えるべきです。通常は、インフルエンザやその他のかぜ症候群の原因ウイルスの感染が先行することが多いと言われています。インフルエンザウイルスの感染に対しては、抗インフルエンザウイルス薬の服用が有効ですが、その他のかぜ症候群のウイルスに対しては現在のところ有効な薬剤がなく、通常は安静・栄養および対症療法(解熱剤、抗ヒスタミン薬、鎮咳剤など)による治療を行うことになります。
一方、細菌感染に対しては、抗生剤の投与が必要です。この治療が遅れると肺炎に進展することがあります。細菌感染の原因菌の大部分はインフルエンザ菌(インフルエンザウイルスとは全く別物)、肺炎球菌(図-1青い小さな粒が菌)、モラクセラ・カタラーリス(図-2赤い小さな粒が菌)の3つです。抗生剤は、原因菌の種類と患者さんの状態に応じて選択されます。

(2) 喘息発作  
 喘鳴(呼吸の際にゼーゼーと音がする)や呼吸困難が主な症状です。気管支喘息の患者さんだけでなく、肺気腫や慢性気管支炎の患者さんでもみられることがあり、感染を契機に喘息発作が起こることもあります。喘息発作が起これば、短期間のステロイドや気管支拡張剤の内服もしくは点滴が必要になります。

(3) 心不全  
 呼吸困難、咳に加えて「むくみ」が出現したら心不全の合併を考えるべきです。足や「すね」がむくんだり、顔がむくんだりします。患者さんによっては顔だけがむくむことがありますので、下肢だけをみるのではなく、顔、特に「まぶた」のしわがむくみのために少なくなっていないか注意する必要があります。また、喘息発作のような「喘鳴」を伴うこともよくあります。在宅酸素療法を受けている患者さんでは、肺が悪いために普段から心臓に負担がかかっていることもあり、心不全の発生には特に注意する必要があります。毎日体重を測定し、数日で2〜3kgも体重が増加したら即受診してください。こうした症状には利尿剤を中心とする治療が行われますが、軽症の場合を除き入院治療が必要となります。

(4) 喀 血 
 痰の一部に血液がまじっているのを「血痰」、痰全体が血液であるのを「喀血」と言います。鼻血や歯ぐきからの出血を「血痰」や「喀血」と勘違いする場合が少なくないので注意が必要です。「気管支や肺からの出血なのか鼻や口からの出血か」自分で判断ができないことも多いので、その場合は受診した方が賢明です。
  少量の出血では通常、止血剤と安静で改善しますが、出血量が多かったり、出血が持続する場合は入院治療が必要となります。

(5) 気 胸 
 頻繁にみられる病気ではありませんが、突然、鋭い胸痛が出現し、呼吸困難を感じるようになったら気胸を疑う必要があります。肺の表面を覆う薄い膜に小さな穴があき空気がもれて肺がパンクした状態を気胸と言います(図-3矢印の先が肺の表面)。どの慢性呼吸器疾患でも発生しうる病気ですが、特に肺気腫の患者さんでは要注意です。
  原則として入院治療が行われ、漏れた空気を抜くチューブを胸の挿入し、場合によっては穴のあいた部分を切除する手術が行われます。

■急性増悪の予防

 急性増悪を予防するには、適量の栄養、十分な休養、きちんとした薬の服用が重要です。また、最大の増悪要因である感染の予防には、インフルエンザワクチンや肺炎球菌ワクチンの接種が大切です。
 

 





発行/萩野原メディカル・コミュニティ