暮らしに役立つ 医療のおはなし 10
喘息死−きちんと治療すれば怖くない− やなせ内科呼吸器科クリニック 院長 柳瀬 賢次

■気管支喘息とは

 気管支喘息は慢性の気管支の病気で、人口の約3%の人がかかっていると言われています。患者さんの気管支粘膜にはアレルギーによる炎症が起こって、図-1のように気管支粘膜がむくみ、空気の通り道が細くなっています。その結果、長引く咳や喘鳴、呼吸困難などの症状が出てきます。
 過去に気管支喘息と診断されたことのない人の中には、「長引くカゼ」だと考えてしまったり、「元々気管支が弱いから仕方ない」と誤解することがあります。そのため、医療機関を受診して「気管支喘息」と診断されても、治療により症状が改善すると、「治った」と判断して治療を勝手に中止し、その後再発する患者さんが少なくありません。実は、気管支喘息では、こうした自己判断が非常に危険なのです。
 気管支喘息は、「高血圧」「糖尿病」「高脂血症」などの生活習慣病と同様の慢性の病気です。慢性病を持つことはつらいことですが、きちんと治療すれば病気のない人と同じような生活が送れるもの。何よりもまず、病気の性格を正しく理解することが大切なのです。「症状がないこと」と「病気がないこと」は同じではありません。しっかりした治療を継続することで「症状のない」日々が送れるようにする必要があります。


■喘息死の統計 
 気管支喘息は、残念ながら「死ぬ」ことのある病気です。厚生省人口動態統計(図-2)で見ると、戦後、死亡率が下がっているものの、近年でも成人で年間6000人前後の患者さんが死亡されています。
 特徴としては、急死される患者さんが多く、「喘息死」のうち、喘息発作発症後3時間以内の死亡が33%、不安定な発作がしばらく続いた後の急死が約40%と言われています。そのきっかけとしては、カゼや気管支炎などの気道感染、ストレス、過労が多く、三大誘因といわれています。


■「喘息死」の危険因子

どんな人が気管支喘息で死亡する危険があるか考えてみましょう。患者さんの側の要因としては「症状だけをたよりに治療方法を自己判断で決定してしまう」ことがあげられます。喘息に対する認識不足があり「症状の改善」を「完治」と勘違いし治療を中止したり、通院治療が不規則になったり、医師の指示を守らない人に死亡する例が多いことが指摘されています。また、内服や吸入のステロイド薬の急な中止、アスピリン等に対する特異体質の人の鎮痛解熱薬等の使用、発作止めの吸入薬の過剰使用も危険因子とされています。


■怖がらないで!喘息死を防ぐために 
 喘息死は不幸なことですが、きちんとした治療で防ぐことができます。患者さん達に心がけていただきたいのは
(1)気管支喘息は慢性の病気だと理解すること/治ったのではなく、症状が静まったと考えること。
(2)症状がなくなっても勝手に治療を中止せず、常に医師と相談しながら病気をコントロールすること/投薬治療がなくなった場合でも、風邪などが原因で状態が悪くなる場合があります。かかりつけ医との連携を密にして体調管理に務めましょう。
(3)薬の使用については医師の指示を守ること/特に、吸入ステロイド薬の正しい吸入法を守ること、発作止めの吸入薬を過剰に使用しないことなどが大切です。
(4)解熱鎮痛薬の使用にあたっては医師と相談すること/アスピリン等の解熱鎮痛薬で喘息の発作が起こることがあります。市販の薬を使用する場合はかかりつけ医に相談を。また、他の医療機関で投薬を受ける場合も、気管支喘息であることをきちんと伝えるようにしましょう。
(5)呼吸の状態を自覚症状だけで判断しないこと/息苦しさの感覚は、人によって異なります。気管支喘息の患者さんでは、自分の呼吸状態を実際よりも軽く判断する傾向があるため、ピークフロー値(図-3)をもとに客観的に判断し適切に対処しましょう。
 こうした治療を継続していくことで、喘息発作や喘息死の恐怖から解放された快適な日々を送っていくことが可能となります。医師との二人三脚で、楽しい毎日を目指しましょう!






発行/萩野原メディカル・コミュニティ