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暮らしに役立つ 医療のおはなし 81

糖尿病と膵疾患 (その5)

わたひき消化器内科クリニック 院長 綿引 元

膵癌について(3)

膵癌を早期に診断するために(続)

■膵癌を視野に入れておく病態

3.膵囊胞性病変
画像診断の進歩により小さな膵嚢胞が診断される機会がふえていますが、膵囊胞は膵癌の発症率が高く、年間1%弱と云われています。また、CT(コンピュータ断層撮影)やMRI(磁気共鳴画像)で膵嚢胞と診断された場合の膵癌リスクは、膵嚢胞のない人に比べ約3倍高いとの報告もあります。
 肝囊胞や腎囊胞はそのほとんどが非腫瘍性嚢胞ですが、膵嚢胞は腫瘍性嚢胞が多く、その大部分が粘液性、稀に漿液性などもあります。
 粘液性囊胞腫瘍のなかでも膵管内乳頭粘液性腫瘍(IPMN)が膵癌の最たる危険因子ですので、膵癌の前癌病変として慎重に経過観察する必要があります。IPMNは、膵管の拡張をきたし、拡張膵管内に粘液を産生する腫瘍で、乳頭状増殖を示し、主膵管型と分枝型(BD‐IPMN)および混合型の三型があります。分枝型では年間1.1〜2.5%に膵癌が発症すると云われており、70歳を超えると膵癌の発症頻度が高くなります。

 一方、非腫瘍性囊胞の主たる病変には、急性膵炎や外傷性膵損傷などの要因で膵液が膵管外に漏れ出してできる仮性囊胞と、膵管分枝の出口がつまり末梢の膵管が膨らんでできる貯留囊胞があります。
 無症状の直径5mm未満の膵嚢胞では精密検査は不要ですが、経過観察は必要になります。主膵管に近接する小嚢胞は、大部分が小型のBD︲IPMNと云われており、画像診断により経過観察を行います。長期の経過観察になることを考慮すると、放射線被ばく軽減の意味でMRIが望ましいです。また、膵囊胞の精密検査は、MRCP(磁気共鳴画像による膵胆管像)で行います。


4.慢性膵炎
慢性膵炎における膵癌発症リスクは、診断から4年以内は14・6倍と非常に高く、診断から5年以降では4.8倍になり(膵癌診療ガイドライン 2016)、発症頻度は1.1〜3.0%と報告されています。潜在する膵癌により膵管狭窄をきたした場合、膵酵素の上昇や腹痛を繰り返すことから、誤って慢性膵炎と診断してしまうことがあります。慢性膵炎の診断から2年以内は厳重な経過観察が必要になります。 慢性膵炎の終末像である膵石を有する場合は、一般健常人比較して膵癌の発症リスクが27倍も高まるとされており、緻密な経過観察が必要です。 慢性膵炎では喫煙や飲酒も膵癌の発症に影響を及ぼしている可能性が指摘されています。喫煙による膵癌の発生リスクは1・68倍で、喫煙本数に相関していると報告されています。喫煙は慢性膵炎自体の増悪因子でもあり、さらに、慢性膵炎からの膵癌発症リスクを増加させることも知られています。 飲酒による膵癌の発症リスクは大量飲酒者では1・22倍増加するが、中等量以下ではリスク増加を認めていません。長期にわたる飲酒のためアルコール性慢性膵炎(図3)となることで、膵癌のリスクが増加すると考えられており、慢性膵炎と診断された後に禁酒した例では膵癌の発症リスクが低下しています。



発行/萩野原メディカル・コミュニティ