暮らしに役立つ 医療のおはなし 70

認知症と地域社会(その3)

やなせ内科呼吸器科クリニック院長 柳瀬 賢次

前回の大地では、認知症3大疾患(アルツハイマー型認知症、血管性認知症、レビー小体型認知症)の特徴をみてきました。今回は、認知症に伴い出現しやすい行動・心理症状(BPSDとも言われます)にふれてみたいと思います。

■行動心理症状(BPSD)

 徘徊、暴力などの行動症状や、不安、うつ状態、幻覚・妄想などの心理症状があり、介護者には大きな負担になる症状です。認知症の原因疾患によって現れやすい症状がありますので、それを知っておくことは認知症患者さんに接する上で助けとなるでしょう(表1)。主なBPSDについてみてみましょう。

  1. 意欲、活動性低下
    認知症3大疾患のいずれでもみられる症状で、テレビを観ながらウトウトする生活をくりかえすようになったり、外出する意欲もなくなったりします。その結果筋力も低下し、ますます活動性が低下する悪循環に陥ってしまいます。改善のためには、デイサービスなどの通所施設の利用などが効果的だと言われています。
  2. もの盗られ妄想
    アルツハイマー型認知症によくみられる被害妄想で、比較的初期の段階であらわれます。身近で世話をしている介護者(お嫁さんなど)に盗みの疑いをかけ、家族が大騒動になったり、介護者が精神的に追い詰められたりすることもあります。妄想が長い時間続くことは稀ですので、否定せずに受け流したり、注意を他のことに向けさせたりすることでやりすごせることもあります。また、デイサービスの利用など、家庭での介護者との接触を減らすことで妄想が軽減することも期待できます。
  3. 興奮、怒りっぽさ
    認知症3大疾患のいずれでもみられる症状です。便秘や発熱等の体調不良で興奮したり、認知症患者さんができないこと・したくないことなどを介護者が強要することで怒りっぽくなったりすることがあります。原因を探って対処することが大切です。
  4. 抑うつ状態
    認知症患者さんは、今までできていたことができなくなり、自信を失いがちです。言葉が速やかに浮かんでこず、話そうと思ったことを忘れてしまうため会話についてゆけなくなります。家庭の中でも孤立しがちになり、抑うつ状態に陥ることがあります。介護者が、患者さんの「できなくなったこと」を受け入れて接することが大切です。時には、抗うつ薬が必要な時もあります。
  5. Ⅴ.徘徊
    アルツハイマー型認知症によくみられる、家の中や外を歩き回る症状です。夜中の徘徊の背景には昼夜逆転があり、デイサービス等の通所施設の利用で昼間によく活動する環境をつくって生活リズムを回復させることで改善することも期待できます。
  6. Ⅵ.幻視
    レビー小体型認知症でよくみられる症状で、「部屋で知らない人がこちらをみている」など人や動物などが鮮明に見えるようです。それが事実でなくても、認知症患者さんはその人や動物が存在していると確信しているので、受け入れることが必要です。

■認知症の人を地域で支える

認知症患者さんへの支援は医療だけではできないことは言うまでもありません。専門的なケアやサービスの相談と提供を行う介護と、認知症の人の権利擁護、見守り、ご家族の支援等が行える地域社会づくりとが有機的に連携してはじめて充実した支援が実現できるようになります(図1)。

厚労省は、団塊の世代が75歳以上となる2025年をめどに、重度の要介護状態になっても住み慣れた地域で自分らしい暮らしを最後まで続けることができるよう、医療、介護、予防、住まい、生活支援が一体的に提供される地域包括ケアシステムの構築を目指しています。認知症はこうしたシステムの主要な対象疾患のひとつとなっています。  政府は2015年1月27日に認知症施策として「新オレンジプラン」を発表しました。そこでは、「認知症の人の意思が尊重され、できる限り住み慣れた地域の良い環境で自分らしく暮らし続けることができる社会の実現」を目指し、様々な施策が計画されています。浜松市でも2016年2月にオレンジガイドブックを作成し、認知症の人とそのご家族が利用できる制度やサービスを紹介していますので、ぜひご活用ください(図2)。




発行/萩野原メディカル・コミュニティ