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特集「糖尿病教室」 No.28

高齢者糖尿病の管理と治療について(その6)

わたひき消化器内科クリニック 院長 綿引 元

日本糖尿病学会と日本老年医学会は5月20日、「高齢者糖尿病の血糖コントロール目標」を発表しました。今回はその内容について解説していきます。

■高齢者糖尿病の血糖コントロール目標(HbA1c値)

超高齢化社会を迎え、高齢者糖尿病は増加の一途をたどっています。高齢者は心身機能の個人差が著しく、高齢者糖尿病では重症低血糖を来しやすいという問題点もあります。高齢者糖尿病の治療向上のために日本糖尿病学会と日本老年医学会が合同委員会を設立し、「高齢者糖尿病診療ガイドライン」の策定を目指していますが、今回「高齢者糖尿病の血糖コントロール目標」を発表しました。  ADL(日常生活動作)レベル、認知機能、薬物療法の内容により、HbA1c7.0%未満〜8.5%未満の間での細かな目標値が策定され、重症低血糖が危惧される薬剤の使用例では「下限値」を設定したことが重要になります。(図1)


■高血糖とともに低血糖対策が重要

高齢者糖尿病の大きな特徴は、低血糖を起こしやすいことです。高齢者では、低血糖が転倒・骨折、認知症、うつ病、QOL(生活の質)低下のリスクとなります。いっぽう、認知症やうつ病、ADLの低下は低血糖を起こす誘因となります。高齢者糖尿病ではHbA1cが高すぎても低すぎてもADLや認知機能が低下することが認められており、合併症防止を目指した高血糖の是正とともに低血糖の回避が重要になります。また、個々の患者さんの多様性が大きいのも特徴となります。

2013年日本糖尿病学会の熊本宣言では「合併症予防のための目標としてHbA1c7.0%未満」を打ち出すとともに、患者さんの個別性を配慮することを強調し、「血糖正常化を目指す際の目標としてHbA1c6.0%未満」と「治療強化が困難な際の目標はHbA1c8.0%未満」を掲げていますが(図2)、今回の血糖管理目標は、その目標を具体化したものと云えます。


■インスリン・SU薬使用例ではHbA1cの「下限値」を設けた

今回の血糖管理目標では、患者さんを特徴や健康状態により3つのカテゴリーに分類しました。その上で、年齢や薬物療法の内容も勘案し、細かくHbA1c管理目標値が策定されました。  さらに、重症低血糖が危惧される薬剤が使用されている場合には「下限値」が設定されました。該当する薬剤は、主にインスリン製剤とスルホニル尿素薬(SU薬)で、速効型インスリン分泌促進薬(グリニド薬)でも該当する可能性があります。低血糖を回避するために、上限値を最大HbA1c8.5%まで緩和するとともに、下限値を設定したのが大きな特徴です。

血糖管理目標値は患者さんごとに柔軟に運用するべきものですが、この管理目標を活用するためには、認知機能や基本的ADL(着衣、移動、入浴、トイレの使用など)、手段的ADL(買い物、食事の準備、服薬管理、金銭管理など)の評価が必要になります。

なお、高齢者糖尿病においても、「合併症予防のための目標はHbA1c7.0%未満」となります。ただし、適切な食事療法と運動療法だけで達成可能な場合、または、薬物療法の副作用もなく達成可能な場合の目標はHbA1c6.0%未満となりますので、「健康寿命」を維持するためにもがんばりましょう。


発行/萩野原メディカル・コミュニティ