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暮らしに役立つ 医療のおはなし 63

肺炎球菌 ワクチンの話

やなせ内科呼吸器科クリニック院長 柳瀬 賢次a

今回は、昨年10月1日から高齢者を対象に定期接種が始まった肺炎球菌ワクチン(図1)についてお話しします。

■肺炎による死亡の97%が65歳以上の高齢者

日本人の死亡原因の第1位は癌などの「悪性新生物」ですが、年々、肺炎の占める割合が増え、2013年には「心疾患」に次いで第3位となっています(図2)。肺炎を発症した場合、若い方は抵抗力もあり治癒しやすいのですが、高齢者になると死亡率が高くなり、肺炎で死亡した日本人の97%が65歳以上の患者さんとなっています。  肺炎を起こす原因菌は、肺炎球菌の他に、インフルエンザ菌、マイコプラズマ、ブドウ球菌、肺炎桿菌、緑膿菌等々があります。肺炎球菌に対するワクチンができたのは、肺炎球菌がこれらの病原菌の中で最も頻度が高く、しかも、重症になりやすいからです。  注意してほしいのは、このワクチンは、肺炎球菌以外の病原菌による肺炎に対しては基本的に予防効果がないということです。すべての肺炎を予防できるわけではありません。


■肺炎球菌ワクチンの歩み

現在の成人用の肺炎球菌ワクチンは、1988年に接種が可能となりました。2001年から一部の自治体でワクチン接種の公費助成が始まり、その後、徐々に全国に広まりました。2009年には、それまで一生に1回しか接種できなかったこのワクチンの再接種が可能となりました。そして、昨年10月より65歳以上の高齢者(5の倍数の年齢の方)を主な対象に、定期接種が始まりました。全国のどの自治体でも、公費助成が受けられるようになりました(全額公費助成の自治体もありますが、浜松市では4115円の助成があり、自己負担は4500円です)。


■ワクチンの効果

ワクチンの効果について、2008年にWHOが肺炎球菌による髄膜炎や、菌が血液中に入り込み全身性に感染が拡がる敗血症などに予防効果があることを公式見解として述べています。肺炎を予防する効果についてもさまざまな報告で示されています。肺炎球菌による肺炎を完全には予防できないものの、インフルエンザワクチンと併用することで、肺炎の発症を予防する効果や肺炎による死亡率を低下させる効果が示されています(表1)。同時に肺炎による医療費の削減効果も示されています。


■副作用

肺炎球菌ワクチンは安全性の高いワクチンと考えられており、一般にインフルエンザワクチンより安全と言われています。主な副作用は、注射部位の疼痛、熱感、腫脹、発赤で数日の時間経過で改善することがほとんどです。稀ではありますが、アナフィラキシー様反応、血小板減少等の副作用報告もありますので、注射部位の副作用以外の症状が出た時には主治医に相談してください。

■小児用肺炎球菌ワクチンも成人に使用可能となりました

昨年6月から、それまで小児にのみ実施されていたPCV13という肺炎球菌ワクチン(図3)が、成人にも使えるようになりました。米国ではPCV13と成人用の肺炎球菌ワクチンを併用することでワクチンの効果が高まるという考え方で、2014年9月に2つのワクチンを併用する新たな提案がされています。この併用に関し日本でも検討が進み、日本呼吸器学会と日本感染症学会から両ワクチンの併用方法についての考え方が示されました。ご希望の方は受付にお申し出ください。


発行/萩野原メディカル・コミュニティ