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特集

ピロリ感染胃炎 と 胃がん

わたひき消化器内科クリニック 院長 綿引 元

■ピロリ菌について

「ピロリ菌」は胃の粘膜の中に住み着いている細菌で、正式には「ヘリコバクター・ピロリ」といいます。胃には強い胃酸があるため、通常の細菌は生息できませんが、ピロリ菌は「ウレアーゼ」という酵素を持っており、ピロリ菌の周辺をアルカリ性の環境にすることで身を守っています。

■ピロリ感染胃炎とは(図1)

現在、日本人ではおよそ3500万人がピロリ菌に感染していると考えられています。その多くは上下水道の整備がされていなかった衛生状態が良くない時代に生まれた50歳以上の方です。 ほとんどの方は、本人が気付かないうちにピロリ菌に感染し、自覚症状もないままにピロリ菌が胃に住み着いています。しかし、ピロリ菌が胃の粘膜に長い間感染していると、次第にピロリ菌が作るアンモニアや毒素のために胃の粘膜が壊され、粘膜に炎症が起こります。ピロリ菌の感染による炎症が長く続くとピロリ感染胃炎になります。 胃の粘膜は、細胞の再生により自ら炎症を治す力や炎症を防ぐ力(防御能)を持っていますが、ピロリ感染胃炎が長く続くと、その力が弱まり、胃潰瘍、十二指腸潰瘍、萎縮性胃炎が発症します。 ピロリ菌の感染の初期の段階は、胃の前庭部が主体で、前庭部胃炎のため高酸状態になり、十二指腸潰瘍が引き起こされます。そのまま感染が持続すると胃体部に感染が広がり、胃体部胃炎から胃潰瘍が発症します。感染による炎症がさらに続くと、胃粘膜の胃酸などを分泌する組織が消失した状態(萎縮性胃炎)になり、次の段階では胃粘膜は腸の粘膜のようになります(腸上皮化生)。この粘膜の状態から一部の患者さんでは胃がんになることがわかっていますので、胃炎を起こす原因であるピロリ菌を除菌することが、胃潰瘍や胃がんの予防につながるのです。(図2)

■胃がんの予防のために

ピロリ感染が胃がん発生の主要な要因であり、非感染者は胃がんの発症のリスクが少ないことが明らかになってきています。 胃がんの予防のためには、胃粘膜の萎縮があまり進展していない、ピロリ感染胃炎のより早期の時期に除菌をすることが必要です。そのためにも、ピロリ感染胃炎の正確な診断をすることが重要です。 ピロリ感染胃炎の治療が健康保険の適応になったことから、胃がんの主要な原因であるピロリ菌を早い段階で除菌することで、胃がんを起こすリスクを減らすことが可能になりました。胃の痛みやもたれなど胃の症状が気になる方は、医療機関を受診して胃の内視鏡検査を受けるようにしましょう。

■胃がんとピロリ菌

現在、日本では毎年25万人に胃がんが発症し、約5万人が死亡しています。ピロリ菌に感染していると胃がんになるリスクが高くなり、胃がんの患者さんの約98%がピロリ菌の感染者です。 胃がんの最大の原因となるのがピロリ菌で、ピロリ菌に感染している期間が長くなるほど胃がんの発症率が増加します。さらに、「喫煙」「塩分とりすぎ」「加齢」などの要因が加わることで、胃がんのリスクがさらに高まります。

■胃がんの予防と撲滅のために

ピロリ菌の主たる感染ルートは乳幼児期の経口感染、戦後の不衛生な時期の水系感染によるものと考えられています。上水道が整備され、衛生環境が整った現在においては、ピロリ菌に感染している人は年齢が低くなるほど減少し、新たな感染はほとんどみられません。ごくまれに、5歳未満の乳幼児期に、近親者や両親、特に母親からの口移しなどによる感染のケースが見られます。 従って、ピロリ感染の源となる両親などの保菌者を減少させることが、新規感染の予防につながります。新たな感染者を生み出さないためにも、ピロリ感染者は成人して出来るだけ早期に除菌治療を受けておくことが、最も有効な方策です。すなわち、ピロリ菌感染者の洗い出しと除菌を徹底的に行うことが、胃がん撲滅につながるといえます。


■ピロリ菌の検査

ピロリ菌の検査には、内視鏡を使う方法と内視鏡を使わない方法があります。 内視鏡を使う方法は、内視鏡で胃炎を確認する際に組織を採取して検査を行いピロリ菌の有無を調べる迅速ウレアーゼ試験・鏡検法・培養法があります。 内視鏡を使わない方法は、血液や尿の抗体検査・尿素呼気試験・便中抗原測定があります。 ピロリ菌の検査は、これらのうちのいずれかを用いて行われますが、一つだけでなく複数の検査を行えばより確かな判定ができます。

■除菌療法について(図3)

ピロリ菌の除菌療法は、胃酸の分泌を抑える薬1種類と抗菌薬2種類を1日2回、7日間服用する治療法です。治療終了後4週以上経過してから、ピロリ菌が除菌できたかどうか、もう一度ピロリ菌の検査(尿素呼気試験等)をします。なお、当院では確実に除菌判定ができるように8週目に判定しています。1回目の除菌療法の成功率は約80%です。1回目で除菌できなかった場合は、2種類の抗菌薬のうちの1つを別の薬に変えて、再び除菌療法を行います。この方法で約80%を超える確率で成功しますので、除菌率は合わせて95%を超えます。 胃がんにならないために、内視鏡検査を受けてピロリ菌感染の有無を確認していきましょう! 特に、40歳以上の方は定期的に内視鏡検査をすることが大切です。早期の胃がんは、適切な治療でほぼ100%治ります。浜松市では「胃がん検診」に内視鏡診断が用いられており、胃がんの発見率が増加しています。開腹せずに内視鏡的に切除できるような小さな胃がんが発見されていますし、内視鏡での「胃がん検診」にてピロリ感染胃炎の診断がつけば、健康保険でのピロリ菌除菌が可能になりましたので、積極的に検診を受けてください。


発行/萩野原メディカル・コミュニティ