暮らしに役立つ 医療のおはなし 49
メタボリックシンドローム(その4)
わたひき消化器内科クリニック 院長 綿引 元


肥満と消化器疾患(1)
 肥満大国と呼ばれる米国をはじめ、欧州、アジア、中南米など世界的な規模で、肥満は大きな健康問題を引き起こしています。特に、日本人は肥満の影響を受けやすく、糖尿病の患者数は年々増加の一途をたどっており、中高年においては国民の4〜5人に1人は糖尿病が疑われていますので、いっそう厳重な対策が必要と云えます。肥満の中でも内臓肥満が糖尿病や高血圧などの生活習慣病の発症リスクを高めることから、内臓肥満の早期発見と対策が重要であり、「メタボリックシンドローム(内蔵脂肪型肥満)」の早期発見を目的として「特定健診」が行われています。

■内蔵肥満と疾病
 内臓肥満は、糖尿病、高血圧症、脂質異常症、心血管障害などのいわゆる生活習慣病のほかに、さまざまな消化器疾患にも深く関わっています。
 最も有名なのが脂肪肝(非アルコール性)です。このなかに非アルコール性脂肪肝炎のように肝硬変や肝癌に進展する恐ろしい病態が含まれます。また、逆流性食道炎、胆石症なども肥満と関わりの強い疾患です。さらに、大腸ポリープや大腸癌、膵臓癌も肥満によりリスクが高くなることが知られています。

■肥満と脂肪肝
 肝臓の余分な脂肪は脂肪滴の形で肝細胞に貯まります。この状態を脂肪肝といいますが、肥満や生活習慣病、お酒の飲み過ぎが主な原因です。
 脂肪肝にはアルコール性脂肪肝と非アルコール性脂肪肝があります。非アルコール性脂肪肝はNAFLD(非アルコール性脂肪性肝疾患)と総称され、肥満や生活習慣病によって起こります。日本でも、肥満人口の急増により、最も頻度の高い肝臓病になります。NAFLDの多くは、単純脂肪肝で、肝臓に脂肪が貯まるのみで心配ありません。しかし、酸化ストレスなどが引き金になり、脂肪肝炎(NASH)が発症し、炎症や肝細胞障害を伴い、肝硬変や肝細胞癌に進行することがあります。

◆肥満が病気を引き起こすメカニズム
「肥満と消化器疾患ガイド」(日本消化器病学会)より引用
■NAFLDとNASHの検査と治療
 NAFLD・NASHは病気が進行するまで症状がほとんどありません。病気が進行して肝硬変になると、黄疸や腹水、肝性脳症(意識障害など)、食道・胃静脈瘤の破裂による消化管出血など重篤な症状が起こります。また、肝細胞癌を発症することもあります。
 脂肪肝は超音波検査やCT検査で診断します。アルコール性肝障害を起こすほどの飲酒歴(日本酒1合/日以上)がない脂肪肝はNAFLDと診断します。さらに、ウイルス性肝炎などの全ての肝障害の原因を検査します。NASHは、肝生検といって肝臓に針を刺して肝臓の一部を採取し、顕微鏡で観察し、肝臓に脂肪肝と炎症や肝細胞障害があればNASHと診断します。
 NAFLDでは、食事と運動療法を中心に体重の減量を図ります。糖尿病に対してはインスリン抵抗性改善薬が第一選択、高脂血症や高血圧の治療も必要です。
 NASHは抗酸化薬(ビタミンE、ビタミンC)が投与され、肝細胞障害に対しては胆汁酸製剤(ウルソ)や強力ネオミノファーゲンCなどの肝庇護剤で治療します。日常生活では、肥満は全ての肝障害によくありません。肥満にならないように日頃注意しましょう。



発行/萩野原メディカル・コミュニティ