暮らしに役立つ 医療のおはなし 45
メタボリックシンドローム(その2)
わたひき消化器内科クリニック 院長 綿引 元


図-1 現代における生活習慣病と糖尿病患者の増加
日本医師会雑誌 メタボリックシンドローム up to date より引用」
 メタボリックシンドロームは、日常の生活習慣が多くの危険因子を呼び覚まし、それらがお互いに重なりあうことにより、心筋梗塞や脳卒中に至らしめる症候群です。内臓肥満が背景にあり、高血糖、高血圧、高脂血症を誘発すると考えられています。そのキーポイントは、内臓脂肪蓄積によるインスリン抵抗性であり、種々の病態に進展します。その病態について、解説して行きましょう。

■メタボリックシンドロームと糖尿病
 脂肪摂取量の増加、車社会など生活習慣の影響から男性では経年的にBMI(体格指数)の増加が見られ、女性ではその傾向は少ないですが、糖尿病の患者数は年々増加の一途をたどっています。中高年においては国民の4〜5人に1人は糖尿病が疑われています(図-1)。特に高齢者の糖尿病は、細い血管に起る網膜症や腎症などの細小血管合併症や太い血管に起る心筋梗塞や脳卒中などの動脈硬化性疾患を約4割に認め、QOL(生活の質)の低下に大きくかかわっています。その糖尿病や動脈硬化性疾患のハイリスクグループとして最近大きな問題になっているのがメタボリックシンドロームなのです。
 メタボリックシンドロームの重要なところは、体重、血圧、血糖などそれぞれの指標が「ほんの少しずつの異常値」であっても、異常値が集まった場合は極めて大きなリスクとなることです。それぞれの指標が「正常よりほんの少し上回っただけだから」という感覚で受け流してしまってはいけません。
 動脈硬化性疾患への進展は、糖尿病の発症前からすでに始まっており、空腹時血糖がたとえ正常であっても食後高血糖がある場合には心筋梗塞や脳卒中などの大血管障害を起こす危険が非常に高く、死亡率も高くなることがわかってきています。糖尿病の患者さんは非糖尿病者に比べて2倍近くの頻度で動脈硬化性疾患を認めることから、糖尿病の予防が極めて重要になります。メタボリックシンドロームの基盤に存在する「インスリン抵抗性・高インスリン血症」への対策や「食後高血糖」への対策が糖尿病の予防に有効になります。
 メタボリックシンドロームの診断や管理に際して食後高血糖を考慮することや内臓脂肪蓄積によるインスリン抵抗性の改善を図ることが重要になります。内臓脂肪はたまるのも早いですが、ダイエットや運動に良く反応して減りやすいものです。内臓脂肪が減ると単に動脈硬化のリスクが減るだけでなく、糖尿病、高脂血症、高血圧も一網打尽に改善します。

■インスリン抵抗性とは
 インスリンは、骨格筋で糖を取り込み、肝臓で糖の取り込みと放出、脂肪細胞では糖の取り込みと脂肪酸の放出を抑制することが主な作用になります。「インスリン抵抗性」とは、インスリンが存在するにもかかわらず、これらの臓器でのインスリンの作用が発揮されない状態をさします。インスリン抵抗性はメタボリックシンドロームの根底にあり、高脂血症や高血糖、高血圧と密接に関連し、動脈硬化の促進、心血管疾患のリスク増加にかかわっています。

■メタボリックシンドロームと高脂血症
 メタボリックシンドロームにおいては、動脈硬化性疾患と糖尿病を予防することが目標になりますが、高脂血症はその重要な管理項目になっています。脂質代謝異常に関する診断項目は「血中トリグリセリド(中性脂肪・TG)150mg/dl以上かつ/またはHDLコレステロール(いわゆる善玉コレステロール)40mg/dl未満、あるいは治療中」となっています。この高TG血症、低HDLコレステロール血症は、インスリン抵抗性のある状態、糖尿病、肥満では高率に観察される脂質代謝異常のパターンです。
 高TG血症、低HDLコレステロール血症は、メタボリックシンドローム、肥満の治療に伴って改善することが期待されています。しかし、メタボリックシンドロームでは、高脂血症の管理目標は決められていませんので、動脈硬化性疾患の予防はLDLコレステロール(いわゆる悪玉コレステロール)の管理から見ていくことが大前提となります。

(次回はメタボリックシンドロームと高血圧、脂肪肝についてお話しいたします。)



発行/萩野原メディカル・コミュニティ