暮らしに役立つ 医療のおはなし 33
心筋梗塞の話 やなせ内科呼吸器科クリニック 循環器医師 山下 恭典

 今回は心筋梗塞が疑われる患者さんに、どんな検査をして確定診断をするのかについて、実際の医療現場の様子を紹介しながら解説します。


 某月某日、某総合病院の救急外来。ひどい胸痛の中年男性が救急車で搬入されました。当直のY先生は頭の中で診断確定の手順を考えながら救急外来へと向かいます。運ばれた患者さんは明らかに顔色が悪く、冷や汗をかいて苦しそうです。Y先生は診察しながら、(これは心筋梗塞くさいな)。「まず心電図」と看護師に指示を出しました。心電図を見たY先生、「うーん、正常とみるか異常ととるか、ちょっと微妙だな。胸痛がでてから1時間だったね。よし、採血してから心エコー。エコーの機械持ってきて。循環器のK先生には電話して状況説明して来てもらって。緊急で心臓カテーテルやるかもしれないからレントゲン技師と検査技師にも連絡入れといて」。各所にテキパキと指示を出しながら心エコーを始めました。「左室の前壁ほとんど動いてないね。前壁の心筋梗塞か」。そこへK先生が到着。状況を簡潔に説明するY先生。K先生が看護師に言います。「心臓カテーテルやるよ。スタッフの準備できてる?」どうやら今夜は徹夜になるかも。

 こんなやりとりが今日もどこかの病院で行われていることでしょう。当クリニックでも先日、心筋梗塞の患者さんが来て、診断確定後に病院に救急搬送されました。胸痛をきたす病気の中で迅速な対応が必要で、見逃したら一大事なのが心筋梗塞です。従って医師には、他の病気はともかく、心筋梗塞かどうかを判断することが第一に要求されます。
 
 その際にまず行われるのが心電図です。ごく短時間で記録がとれて、その場で医師が診断を下すことができるのが最大のメリットです。図-1のように、心筋梗塞が起きると心電図には特徴的な変化が出るため、典型的な症例では胸が痛いときの心電図1枚で確定診断となる場合もあります。ただし、発症後超早期の症例や、心臓の冠動脈が完全に詰まってしまう寸前の場合には、ほとんど正常心電図と区別できない場合さえあります。その際にはある程度の時間をあけて再度心電図をとり、所見の変化がないか確認します。

 採血検査も心筋梗塞の診断に重要な項目です。もちろん緊急で結果を確認します。よく行われるのは、(1)白血球数 (2)CPKおよびCPK-MB (3)LDHやGOT(4)心筋トロポニン (5)ミオグロビン (6)H-FABP などです。心臓の筋肉を養う冠動脈が閉塞すると、血液の来なくなった部分の心筋細胞は壊死していきます。その際に細胞の中から種々の物質が血液中にもれ出てきます。それを測定して高ければ心筋梗塞が起こっていると診断するわけです。ただ発症後間もないと、異常値がでない場合があるので、個々の症例で専門的な判断が必要となります。
 
 次に心エコー検査も非常に重要です。他の検査で異常が検出できないような超早期の心筋梗塞でも、心エコー検査で左心室の壁の動きが低下している所見が得られて診断が確定することもよくあります。きわめて迅速にその場で医師が確認できるメリットも大きいものです。(図-2)

 以上のような検査を迅速に行い、心筋梗塞が間違いなさそうな発症間もない症例には、最終的に心臓カテーテル検査が緊急で行われることがあります。手首、肘、ソケイ部(太腿の付け根)のいずれかの場所を局部麻酔して、カテーテルという管を動脈に挿入し、心臓近くまで先端を近づけます。造影剤で心臓の冠動脈を写す検査です。この検査によってどこの血管が詰まったのかが判明し、そのまま血管を再開通させる治療が行われることもあります。具体的な治療内容はまたの機会に解説しましょう。



発行/萩野原メディカル・コミュニティ