暮らしに役立つ医療のおはなし 21 

心筋梗塞の話 やなせ内科呼吸器科クリニック 循環器担当 山下 恭典

■はじめに
 心筋梗塞は、循環器科領域で重要な位置を占める病気です。起こしたばかりの状態(急性心筋梗塞)では患者さんが急死することも稀ではなく、診断が一分でも早くつくことが患者さんの命に直結します。また治療も一刻を争う緊張感を伴うものとなります。心筋梗塞の話をする場合、病気の成り立ち、症状、診断、治療など全てを網羅しようとすると、かなり大変なので、今回は病気の成り立ちをテーマにして説明します。

■心臓の命綱、冠動脈
 心臓に限らず人間の内臓は血液が送られてこなければ働くことができません。心臓は身体のすみずみに血液を送るのが仕事ですが、その心臓自身も血液をもらわないと仕事ができませんし、心臓の筋肉の細胞も生きていけません。そのため、自分が送り出した血液が通る大動脈が心臓から出た直後のところで血管を出してもらい、自分自身への血液をもらっています。この血管は冠動脈と呼ばれ右と左それぞれ一本ずつが心臓の表面を走っています(図-1)。この血管は心臓の命綱と言っても良いと思います。この血管がしっかりしていて血液の流れが十分であれば心筋梗塞などは起こらないのです
■梗塞とは?
 梗塞という言葉を辞書で引いてみると、「ふさがって通わなくなること」と説明されています。心筋とは「心臓の筋肉」という意味ですから、心筋梗塞を直訳すると「心臓の筋肉のところで何かがふさがって何かが通わなくなる病気」となります。もちろんふさがってしまうのは心臓の冠動脈、通わなくなるのは心臓の働きになくてはならない血液の流れです。
  もし、冠動脈があるところで完全に詰まってしまうと、その先には血液がまったく行かなくなります。そのため、その血管で養われている心臓の筋肉の一部が壊れてしまいます。つまり、大事な心臓に重大な傷がついてしまうのです。命を維持する心臓に傷がついてしまうのですから、これは大変なことです。急死の原因となるのもうなずけます。つまり、心筋梗塞とは内臓を養う血管(動脈)が閉塞してその内臓の一部が壊れてしまう病気なのです。同じことが脳で起これば脳梗塞、腎臓で起これば腎梗塞という病気になります。

■なぜ冠動脈が詰まるのか?
 健康な冠動脈は簡単には詰まったりしません。血管が詰まる原因は動脈硬化です。中年を過ぎると、どんなに健康に気をつけていても動脈の壁は若いときよりも硬くなっていきます。男性では40歳過ぎ、女性では閉経を過ぎたあたりが目安です。ある意味老化現象と言えますが、血管の壁に余分なコレステロールが沈着し、動脈の壁が固くなってしまうわけです.
 この動脈硬化を起こした部位で、何らかのきっかけで血管の内側の壁にわずかな傷がついたりすると、その部位で血の塊(血栓)ができてしまいます。その血栓が大きくなって血管を完全に塞いでしまうと心筋梗塞が発生するのです(図-2)。
  厄介なことに、動脈硬化が十分に進んで血管が十分に狭くなってから血栓ができるとは限らず、比較的軽い動脈硬化の所でも、悪条件が重なれば血栓はできてしまいます。どちらの場合も、前触れとなる症状が出るとは限りません。つまり動脈硬化があるとわかっている患者さんでも、心筋梗塞がいつ発生するかは予想がつかないのが現状です。

■心臓の筋肉が壊れるとどうなるのか?
 冠動脈で血栓ができて冠動脈が完全に詰まると、心臓の筋肉組織はすぐに壊れ始めます。すると通常は強烈な胸の痛みが突然起こります。この痛みは、普通ではないと直感するような前胸部痛です。血管が運良く再開通した場合は痛みが治まりますが、詰まりっぱなしになってしまうと痛みなどの症状は長時間持続し、その間にも心臓の筋肉組織はどんどん破壊されていきます。最悪の場合には破壊された部分が原因となって、心臓がぶるぶると震えるようにしか動けなくなり、脈拍が停止してしまうタイプの恐ろしい不整脈(心室細動)が起こることがあります(図|3)。自宅でこの不整脈が出てしまった場合、残念ながら助かる可能性は極めてゼロに近いでしょう。
  この不整脈が出ないうちに病院にたどり着いて、緊急で治療が開始されたとしても、その時点までに死んでしまった筋肉組織は生き返りません。傷跡として残ってしまいますし、その分だけ心臓の機能が以前よりも低下してしまいます。
 起こしてしまうと命にかかわる可能性があり、うまく切り抜けても後遺障害が残る大変な病気、それが心筋梗塞です。また別の機会に、今回の続きとして、心筋梗塞の診断や治療についてご紹介します。




発行/萩野原メディカル・コミュニティ